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東京地方裁判所 平成4年(ワ)8492号 判決

原告

三浦蓮児

三浦貞子

安部元祥

安部久美子

宮川節子

右原告ら訴訟代理人弁護士

小林伴培

被告

株式会社三菱銀行

右代表者代表取締役

若井恒雄

被告

ダイヤモンド信用保証株式会社

右代表者代表取締役

丹後忠次郎

右被告ら訴訟代理人弁護士

小野孝男

右訴訟復代理人弁護士

庄司克也

芳村則起

近藤基

主文

一  原告らの請求をいずれも棄却する。

二  訴訟費用は原告らの負担とする。

事実

第一  当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

1  原告三浦蓮児は、被告株式会社三菱銀行に対し、平成二年二月二三日付けの金一億四五〇〇万円の金銭消費貸借契約に基づく債務が、原告三浦貞子、同安部元祥、同安部久美子、同宮川節子は、右債務につき連帯保証人としての債務がいずれも存在しないことを確認する。

2  原告三浦貞子は、被告株式会社三菱銀行に対し、前記同日付け金九五〇〇万円の金銭消費貸借契約に基づく債務が、原告三浦蓮児、同安部元祥、同安部久美子、同宮川節子は、右債務につき連帯保証人としての債務がいずれも存在しないことを確認する。

3  被告ダイヤモンド信用保証株式会社は、原告三浦蓮児に対し、別紙物件目録第一記載の内(五)及び(七)を除くその余の土地・建物に対する別紙根抵当権目録第一、一、二記載の根抵当権設定登記、別紙物件目録第一記載の(五)及び(七)の土地に対する別紙根抵当権目録第二、一記載の根抵当権変更登記、同目録第二、二記載の根抵当権設定登記の各抹消登記手続きをせよ。

4  被告ダイヤモンド信用保証株式会社は、原告安部元祥、同三浦蓮児に対し、別紙物件目録第二記載の建物に対する別紙根抵当権目録第一、一、二記載の根抵当権設定登記の各抹消登記手続きをせよ。

5  訴訟費用は被告らの負担とする。

二  請求の趣旨に対する答弁

主文同旨

第二  当事者の主張

一  請求原因

1(一)  原告三浦蓮児(以下「原告蓮児」という。)は、明治生命の変額保険に加入するため、被告株式会社三菱銀行(以下「被告銀行」という。)から、平成二年二月二三日、金一億四五〇〇万円の融資を受けた。

(二)  被告ダイヤモンド信用保証株式会社(以下「被告ダイヤモンド」という。)は、同日、原告蓮児との保証委託契約に基づき被告銀行との間で、原告蓮児が右(一)記載の金銭消費貸借契約に基づき被告銀行に対して負担する一切の債務について連帯して保証した。

(三)  原告三浦貞子(以下「原告貞子」という。)、原告安部元祥(以下「原告元祥」という。)、原告安部久美子(以下「原告久美子」という。)及び原告宮川節子(以下「原告節子」という。)は、同日、被告ダイヤモンドに対し、被告ダイヤモンドが前記(二)の保証委託契約に基づく保証契約を履行することにより、原告蓮児が被告ダイヤモンドに対して負担する一切の債務について連帯して保証した。

(四)  原告蓮児及び原告元祥と被告ダイヤモンドは、同日、原告蓮児及び原告元祥の所有別紙物件目録記載の第一、第二の各不動産について、

(1) 同目録記載の第一のうち、(五)及び(七)を除くその余の不動産、同目録記載の第二の不動産について、別紙根抵当権目録記載の第一の一のとおり、原告蓮児を債務者、原告蓮児と被告ダイヤモンド間の保証委託取引・金銭消費貸借取引により生じる原告蓮児の被告ダイヤモンドに対する一切の債務を被担保債権、極度額を金二億八八二〇万円とする根抵当権を設定し、

(2) 別紙物件目録記載の第一のうち、(五)及び(七)の不動産について、別紙根抵当権目録記載の第二の一のとおり、平成元年九月二九日設定済の根抵当権(債務者・原告蓮児、被担保債権・原告蓮児と被告ダイヤモンド間の保証委託取引・金銭消費貸借取引により生じる原告蓮児の被告ダイヤモンドに対する一切の債務)の極度額を二億八八二〇万円に変更することとし、原告蓮児及び原告元祥は同日右根抵当権設定等の登記手続をした。

2(一)  原告貞子は、明治生命の変額保険に加入するため、被告銀行から、平成二年二月二三日、金九五〇〇万円の融資を受けた。

(二)  被告ダイヤモンドは、同日、原告貞子との保証委託契約に基づき被告銀行との間で、原告貞子が右(一)記載の金銭消費貸借契約に基づき被告銀行に対して負担する一切の債務について連帯して保証した。

(三)  原告蓮児、原告元祥、原告久美子及び原告節子は、同日、被告ダイヤモンドに対し、被告ダイヤモンドが前記(二)の保証委託契約に基づく保証契約を履行することにより、原告貞子が被告ダイヤモンドに対して負担する一切の債務について連帯して保証した。

(四)  原告蓮児及び原告元祥と被告ダイヤモンドは、同日、原告蓮児及び原告元祥の所有別紙物件目録記載の第一、第二の各不動産について、別紙根抵当権目録記載の第一の二及び同目録記載の第二の二のとおり、原告貞子を債務者、原告貞子と被告ダイヤモンド間の保証委託取引・金銭消費貸借取引により生じる原告貞子の被告ダイヤモンドに対する一切の債務を被担保債権、極度額を金一億六五〇〇万円とする根抵当権を設定することとし、原告蓮児及び原告元祥は、同日右根抵当権設定等の登記手続をした。

3  前記1及び2の各(一)の金銭消費貸借契約(以下「本件金銭消費貸借契約」という。)には要素の錯誤があって無効である。

(一) 本件金銭消費貸借契約当時、原告蓮児及び原告貞子夫婦(以下「原告夫婦」という。)の収入は、年金・地代・家賃にすぎず、原告蓮児の税込み年収は金六四九万円、原告貞子の年収は金一五〇万円であるのに、本件金銭消費貸借契約に基づく原告蓮児の年間返済金は金九八六万円、原告貞子の年間返済金は金六四六万円であり、原告蓮児及び原告貞子の年収では右返済金の支払は不可能であった。

(二) 被告銀行は、本件金銭消費貸借契約当時、本件金銭消費貸借契約にかかる金額に対する利息の支払が原告夫婦の全収入をもってしても不可能であったことを知っていた。

(三) 被告銀行は、本件金銭消費貸借契約に基づく返済金の支払に充てるための費用として約三年分の利息として金五四〇〇万円も本件金銭消費貸借契約に含めて融資した。

(四) 被告銀行は、本件金銭消費貸借契約が変額保険による収入を唯一の財源として長期に元金を返済することを前提に貸借がされたものであることを熟知しており、原告夫婦も右を前提に本件金銭消費貸借契約を締結したものである。

(五) 本件金銭消費貸借契約当時、明治生命の変額保険は保険金額を割込み損失状態で確実に高収入が見込まれる客観的状況はなかったのに、被告銀行は、変額保険は高収入が見込まれるとして保険加入を薦めて年収の二倍以上の利息の支払をさせる融資をしたものである。

(六) よって、被告銀行が保証し、原告夫婦も予期していた変額保険による収益を受けられなかったことについて、原告夫婦には錯誤があり、右錯誤は表示されているから、本件金銭消費貸借契約についての原告夫婦の錯誤は要素の錯誤に該当するから本件金銭消費貸借契約は無効である。

4  本件金銭消費貸借契約は、次のとおり、被告銀行の詐欺によってなされたものである。

(一) 本件金銭消費貸借契約当時、被告銀行と明治生命とは、業務提携をしていた。

(二) 被告銀行は、変額保険によるリスクの説明をせず、変額保険を利用すれば節税対策になるとの虚偽の事実を告げて保険加入を名目として融資を行った。

(三) 被告銀行は、変額保険加入に際し、原告夫婦は一銭の金銭も用意する必要がないと説明し、金利支払のため三年分の金利を貸し付けている。

(四) 被告銀行は、わが国で一流の銀行であることは世間一般の公知の事実である。

(五) 右のとおり、変額保険加入に当たって、リスクの説明もなく、利息支払の実感を隠蔽するため三年分の長期の利息の支払資金を貸付けて利息支払の実感を隠蔽するのは、被告銀行の信用度を信じた原告夫婦に対する重大な欺瞞行為であり、被告銀行の右行為に基づく本件金銭消費貸借契約は詐欺行為である。

(六) 原告夫婦は、平成四年一二月七日の本件第四回口頭弁論期日で本件金銭消費貸借契約の意思表示を取り消した。

5  被告銀行の本件金銭消費貸借契約に基づく融資(以下「本件融資」という。)は公序良俗に反し無効である。

(一) 本件融資は、原告夫婦で総額金三億円の変額保険加入のため一時払の保険料支払のための融資で事業資金等の融資ではない。

(二) 本件金銭消費貸借契約当時の原告夫婦の総収入は、年間で約金八〇〇万円と被告銀行は認識していたのに、本件融資は利息(年7.5パーセントとして)だけでも年間一八〇〇万円である。

本件金銭消費貸借契約当時原告蓮児は七三歳、原告貞子は六二歳で、いずれも無職で年金、地代、家賃の収入があるだけで、その他には収入がない。被告銀行に対する融資申込みには、原告貞子には年間金一五〇万円の収入がある旨の記載があるが、右は税法上専従者控除が認められるため、原告貞子の収入としてあるが、実際上は、原告蓮児の家賃、地代収入が主たる収入であるに過ぎず、右事実を被告銀行は知っていた。

(三) 原告夫婦に右(二)記載の収入以外に特別の収入がない限り、本件融資金の返済が不可能であることを被告銀行は認識していた。

(四) 原告夫婦が本件金銭消費貸借契約を締結したのは、自己の収入で本件融資金の返済は不可能であるが、被告銀行が変額保険に加入すれば、税法上も得策であり、また変額保険は高額の収益が期待できるから本件融資金の返済は何ら心配がないと保証したためである。

(五) ところが、本件融資金の返済のため、被告銀行は三か年金五〇〇〇万円を上回る金額も貸付に加算し、いわば利息充当分として貸し付けた金額のなかから月々のローンの返済を行うという操作をしていた。そのため、原告夫婦は、変額保険の実態が判然とするまで変額保険の加入に当たり、被告銀行と明治生命が保証するとおり変額保険の収益により、元利の返済ができていると思っていた。しかし、実態は、被告銀行が貸し付けた資金の内からローンの返済が行われていた。

(六) 右ローンの返済金に充当する資金は約金五四〇〇万円であり、右金員に対しても年7.5パーセントの利息を支払わせていた。すなわち、本件融資金返済資金が原告夫婦にはないため、右資金も貸付け、しかも三年分相当額を一括して貸付け、これに対しても利息を取っていたもので、右金五四〇〇万円に対する年7.5パーセントの利息は金四〇五万円であり、原告蓮児の年収の約半額であり、右金五四〇〇万円を借り入れただけでも原告夫婦の生活を維持できず、元金の返済も不可能である。

(七) 本件融資は変額保険加入の勧誘当時被告銀行が保証したとおり、変額保険による高額な収入が保証されない限り返済は不可能な融資契約であるのに、明治生命の変額保険は、原告夫婦が加入した当時すでに損失状態であった。この点について被告銀行の原告夫婦に対する欺罔行為があった。

(八) 変額保険加入に伴う本件金銭消費貸借契約に基づく融資は、原告夫婦二人が相前後して死亡しないかぎり損失が増大することが被告銀行には客観的に明らかであった。

(九) 銀行の融資は、元金の返済、利息の支払が可能であるかどうかを検討して行われるのが常態であるのに、本件融資は、前記のとおり、変額保険による利益が期待できない以上、元金はもとより利息の支払も不可能であることは、原告夫婦より被告銀行には判然と理解できることである。

にもかかわらず、被告銀行が変額保険への加入を勧誘し、その保険料の一時払い金を融資した本件融資には、原告夫婦に何のメリットもなく、また前記(七)の欺罔行為がなければ原告夫婦は本件金銭消費貸借契約を締結しなかったものである。本件融資は結局当初から原告蓮児、原告安部元祥の担保不動産を競売に付して貸付金を回収しようと企図したものとしか理解できず、銀行の融資として著しく社会的妥当性を欠くもので、本件金銭消費貸借契約は公序良俗に反し無効である。

二  請求原因に対する認否

1  請求原因1及び2の事実は認める。

2(一)  同3の(一)のうち、原告蓮児及び原告貞子の年収では右返済金の支払は不可能であったことは争い、その余の事実は認める。

(二)  同(二)は争う。

(三)  同(三)の事実は認める。

(四)  同(四)は争う。

(五)  同(五)のうち、本件金銭消費貸借契約当時、明治生命の変額保険は保険金額を割込み損失状態で確実に高収入が見込まれる客観的状況はなかったことは不知、被告銀行が変額保険は高収入が見込まれるとして保険加入を薦めて年収の二倍以上の利息の支払をさせる融資をしたことは争う。

(六)  同(六)は争う。

3(一)  同4の(一)及び(二)の事実は否認する。

(二)  同(三)のうち、利息支払資金として金五四〇〇万円を貸し付けていることは認め、その余の事実は否認する。

(三)  同(五)は否認ないし争う。

4(一)  同5の(一)及び(二)の事実は認める。

(二)  同(三)ないし(六)は否認ないし争う。

(三)  同(七)のうち、明治生命の変額保険は、原告夫婦が加入した当時すでに損失状態であったことは不知、その余は否認ないし争う。

(四)  同(八)及び(九)は否認ないし争う。

第三  証拠

本件記録中の書証目録及び証人等目録の記載を引用する。

理由

一請求原因1及び2の事実は当事者間に争いがない。

二本件金銭消費貸借契約締結に至る経緯等について検討する。

〈証拠略〉並びに弁論の全趣旨を総合すれば、次の事実を認めることができる。〈証拠判断略〉

1  原告蓮児は大正五年七月一日生まれ、昭和一五年四月東京海上火災保険株式会社に入社し、昭和四四年退職後、タカラ損保等に勤務し、五八歳以降は何処にも勤めていない。

2  原告蓮児は、平成元年九月二九日、被告銀行から自宅の改装、改築のために住宅ローンとして金一二〇〇万円を原告蓮児の土地を担保に借り入れた。

そのころ、被告銀行の取引先第一課係員石田孝(以下「石田」という。)が原告蓮児宅を訪問した際、原告蓮児の死亡時の相続税のことが話題となったことから、原告蓮児所有の資産を聞き、それについて大雑把に相続税路線価を出し、相続全評価額が金一四億円であれば、これに税率を掛けて相続税の概算額を出すと金九億円になるとし、相続税対策として原告蓮児所有の土地上にビルを建てることを提案したが、同土地の下に地下鉄が走っていて高いビルは建てられないとの話であったため、保険を使った対策もある旨話した。石田は、原告蓮児が保険の話を聞きたいと言ったため、一度専門家を連れてきて紹介する旨話をした。そして、石田は、原告蓮児の資産の総額、家族構成等を明治生命代理者牧富義(以下「牧」という。)に連絡したところ、牧は、原告蓮児のケースについて概算でプランを作っておくと言った。

3  被告銀行の取引先第一課課長高島誠一(以下「高島」という。)及び石田は、平成元年一〇月二四日、牧とともに原告蓮児方を訪問して牧を紹介した。牧は、原告蓮児に対し、変額保険についての説明及び相続対策の話をし、高島及び石田は保険料の払込については被告銀行が融資し、その融資金の利息の支払資金等についても原告夫婦の年収が約金八〇〇万円に過ぎないことを知っていたため被告銀行で融資する旨の説明をした。

原告蓮児に対する変額保険の説明は、牧が行い、被告銀行の行員は説明しなかった。

4  その後、被告銀行は原告蓮児に対し、保険会社として住友生命も紹介した。また、石田は、牧とは行かなかったが、三ないし四回原告蓮児方を訪問し、変額保険加入について原告蓮児の意向を聞いたところ、長女である原告久美子及び同女の夫である原告元祥と相談している旨の回答であったため、被告銀行が融資をする場合には、相続人全員に連帯保証人になってもらうことになるので、その点も長女等に説明するよう依頼した。

5  牧は、その後も原告蓮児方を三、四回訪問し、変額保険の説明等をした。

変額保険に加入するに際し、保険料を借り入れて保険料を支払うことが相続対策になるとは、被相続人の右借入金が相続税の計算のとき負債に計上され、相続が発生したときに支払われる死亡保険金については相続人各人について一定の控除が認められていること、右支払われる死亡保険金で相続税の一部の支払に充てることができることをいう。原告蓮児に対して右内容の説明をしたのは牧であった。

6  原告元祥は、原告夫婦が加入する変額保険及び被告銀行から融資を受けること等について保険関係の人に相談したところ、保険に入ることの賛成を得た。そこで、原告蓮児は、平成元年一一月二〇日ころ、石田に対し、変額保険に加入したい旨の電話をし、連絡を受けた石田は、その旨牧に連絡した。

7  石田は、牧から、同月終わりころに健康診断を行う旨の連絡を受けた。

原告蓮児は、明治生命と住友生命で健康診断を受けたが、住友生命は、原告蓮児に既往症があること及び年齢が七三歳であったことを理由に保険加入を断った。明治生命は、健康診断の結果、原告蓮児は保険に入るのが難しいかもしれないと原告蓮児に説明し、石田も牧からその旨の連絡を受けた。

その後、被告銀行は、牧から、保険金額を減額して原告蓮児が保険に入れるかどうかを検討している旨聞いていた。

8  平成元年一二月下旬、被告銀行の原告蓮児の担当の石田が異動になり、後任は荻野清(以下「荻野」という。)になった。

9  被告銀行は、平成二年一月下旬ころ、牧から、原告蓮児が保険に加入したこと及び右保険の払込保険料記載のファックスを受け取った。右ファックスには、右払込保険料についてローンを組んで欲しい旨の依頼があった。また、そのころ、被告銀行は、原告蓮児から電話で、保険に加入できることになったのでローンの手続をとってもらいたい旨の依頼を受けた。

そこで、荻野は、原告夫婦の生命保険金に対する払込金額及びこれに対する三年分の利息、保証料、登記費用等を計算して融資額を算出し、原告夫婦に対して本件金銭消費貸借契約の内容(利息返済分等を含めて融資額が原告蓮児が金一億四五〇〇万円、原告貞子が金九五〇〇万円、当初利率が年7.5パーセントであること等)及び融資金のうち利息返済分、保証料、登記費用等のための金額が原告夫婦合わせて約金五四〇〇万円であること等の説明をし、原告夫婦から右内容に基づく融資を受けることの承諾を得た。

原告夫婦は、右融資金の中に利息支払用の資金等も入っていることを知っていたし、右融資金を返済しなければならないことも承知していた。

10  本件金銭消費貸借契約に基づく融資は、被告銀行の中野支店の当時の担当であった荻野が禀議書を作成し、上司の高島、支店長を経て、本部に禀議書が回り、本部で右禀議書の決裁を得て行われた。被告銀行は、原告夫婦の収入が右融資金の月々の利息の返済にも不足するため、利息支払用の資金等も含めて融資することとし、その返済は、右融資で加入する保険が相続対策として加入する保険であったことから最終的には死亡保険金で支払を受けることを予定していた。

11  原告夫婦の本件金銭消費貸借契約に基づく債務については、原告夫婦と被告ダイヤモンド間の保証委託契約に基づき被告ダイヤモンドが保証し、被告ダイヤモンドは右保証委託契約から生ずる原告夫婦に対する債権を担保するため、原告蓮児等所有の不動産に根抵当権を設定するとともに、原告夫婦それぞれについてその相続人と前記原告夫婦の被告ダイヤモンドに対する債務について連帯保証契約を締結した。

12  利息に充てる予定の金額は、原告蓮児の普通預金ないし定期預金に入金しておき支払日に右預金から返済に充てる方法がとられていた。また、原告夫婦は、毎年、被告銀行から送られてくる本件金銭消費貸借契約に基づく融資金の返済内容を記載した書面を受け取っていた。

13  原告夫婦が加入した変額保険は、払い込まれた保険料を生命保険会社が株等で運用し、その実績に応じて死亡保険金または解約返戻金が変動し、その変動した死亡保険金または解約返戻金を支払うが、株等の運用実績にかかわらず支払われる最低保証保険金は確保されている。しかし、借入残高が最低保証保険金を上回っている場合には、最低保証保険金では借入残高の完済ができないことになる。

被告銀行は、死亡保険金で融資金が完済されない場合には、原告蓮児所有の不動産を原告側で活用することないし右不動産の根抵当権の実行により返済を受けられるものと思っていた。

14  被告銀行は、本件金銭消費貸借契約当時、保険会社による変額保険の払込保険料の運用内容ないし実績については知らなかった。

15  変額保険の具体的な運用実績は、保険会社から原告夫婦に決算書によって報告されていた。

前記認定以外の原告主張事実を認めるに足る証拠はない。

三以上の事実を前提に原告らの主張について判断する。

1  錯誤無効の主張について

前記二認定のとおり、請求原因3の(四)及び(五)の事実を認める証拠はなく、また、被告銀行が、変額保険の運用実績を原告夫婦に保証したことを認めるに足る証拠はないから、右事実を前提にする原告らの錯誤無効の主張は理由がない。

2  詐欺を理由にする意思表示の取消について

(一) 前記二認定のとおり、請求原因4の(一)及び(二)の事実を認める証拠はない。変額保険の具体的説明をしたのは牧であり、ほとんど被告銀行員が同行していないときに牧から原告夫婦に説明がなされていたものであり、被告銀行が虚偽の事実を告げて保険加入を名目として融資を行ったとは認められない。

(二) 請求原因4の(三)については、前記二認定のとおり、本件金銭消費貸借契約は、原告夫婦の収入では被告銀行の融資する金銭の利息も返済できないため、被告銀行は利息を返済するための利息相当分も融資したものであり、原告夫婦も右融資を受けた利息相当分も含めた金銭を返済しなければならないことを知っていたものであるから、右事実は欺罔行為と評価できるものではない。

(三) 請求原因4の(五)については、右(一)及び(二)で認定のとおりであり、利息を支払う必要があることを原告夫婦は承知していたし、前記二認定のとおり、利息を支払うための融資金は原告蓮児の預金通帳に入金されそこから支払われていたこと、原告夫婦は、毎年、被告銀行から送られてくる本件金銭消費貸借契約に所づく融資金の返済内容を記載した書面を受け取っていたものであり、返済内容を理解できる状況にあったものであるから、被告銀行が利息支払の実感を隠蔽するために利息返済資金を貸し付けたと認めることもできない。

(四) 以上によれば、詐欺を理由にする意思表示の取消の主張はその余の点について判断するまでもなく理由がない。

3  公序良俗違反の主張について

前記二認定のとおり、被告銀行が変額保険による高額な収入を保証したことを認めるに足る証拠はない。

原告夫婦は相続対策としての変額保険への加入及び変額保険料支払のための本件金銭消費貸借契約締結の是非について事前に検討したうえで、変額保険に加入し、本件金銭消費貸借契約も締結しているものである。また、本件金銭消費貸借契約は、原告夫婦の収入では被告銀行の融資する金銭の利息も返済できないため、被告銀行はその返済するための利息分も融資したものであるが、被告銀行は、利息分の融資も含め本件金銭消費貸借契約に基づく融資金は原告夫婦の死亡保険金で返済されるものと理解していたし、そうでなくても原告蓮児所有の不動産の有効活用ないし右不動産の根抵当権の実行等によれば確実に返済を受けられるものと思っていたものであり、原告夫婦も右融資を受けた金銭及び利息を返済しなければならないことを知っていたものである。

更に、他の前記一及び二認定事実並びに右1及び2認定の事実を総合しても、本件金銭消費貸借契約が公序良俗違反であると認めることはできず、右公序良俗違反の主張は理由がない。

四以上の事実によれば、原告ら本件請求はいずれも理由がないから棄却し、訴訟費用の負担について民事訴訟法八九条、九三条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官天野登喜治)

別紙物件目録〈省略〉

別紙根抵当権目録〈省略〉

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